研究会の始まり

昭和60年当時岐阜大学医学部放射線科の柳川繁雄先生が、岐阜地区4施設の放射線治療患者を診察していました。そこで、各施設の照射線量の計算方法が異なっていることを疑問に思い、「施設間の標準化を行っては」とのことから、昭和62年7月に岐阜県下の放射線治療に携わる医師、診療放射線技師が年3〜4回集まり情報や技術交流を図る目的で発足誕生しました。
平成5年1月から社団法人岐阜県放射線技師会主催の研究会として会則を整備し再出発をしました。

開かれた研究会
この研究会は、医師と診療放射線技師が協力して運営してきたため、医師の立場、技師の立場を超えて放射線治療について議論することができ、研究会には岐阜県はもとより、近隣の県から職種を問わず多数の職種が参加できる、開かれた会としています。

手作りの研究会
岐阜県の各地区より10名の世話人と2名の顧問が選出され、研究会担当理事とともに、研究会開催に当たっては、案内状の作成、送付、司会進行、報告書作成までを協賛メーカーの手を借りず、全て手作りで行っています。

技術に偏らず
ともすれば、技術偏重になりがちな研究会にあって、放射線治療という特殊な分野ということで、患者様の心のケアも含んだトータルな治療を目指して取り組んでいます。

第48回岐阜県放射線治療技術研究会


会員発表
1 Novalis Txの使用経験
岐阜大学医学部附属病院 放射線部
○岡田仁志 松山勝哉 北原将司 横山龍二郎
【はじめに】当院に導入された放射線治療装置Novalis Txの稼働は、平成22年12月の使用開始から6ヶ月になる。今回、その経験から、Novalis Txの取り扱い時に考慮しなければならない点を幾つか取り上げてみた.
【検討事項】@Novalis Txで可能な照射、及びその有効利用方法.ANovalisTxに付属する2つの画像誘導装置の使い分け方法.BNovalis Txに付属する6軸カウチによる線量吸収と皮膚線量.CNovalisTxで可能な高精度照射の線量検証について.DNovalis Txの採算性について.以上の5点について検討してみた.
【結果・考察】@ExacTracの使用でSRS、SRT、IMRTの所要時間が短縮でき、CBCTを併用することで軟部組織の位置確認も可能となった.高精度照射を行う上で非常に有意義な装置である.ANovalisTxはField40x22cmで、用途に多様性はあるが、そのまま全ての照射に用いるには問題がある.6軸カウチ天板と、それによる皮膚線量の増加を考慮して使用しなければならない.BNovalis Txを有効に活用するために、検証業務も含めた治療業務マネージメントが大切になってくる.
【今後の課題】@OBIの正側画像照合とCT画像照合の比較・検討.AOBI照合とExacTrac照合の比較・検討.B2種類の画像誘導装置による被曝線量の検討(一連の治療における適切な撮影回数は.IGRT加算と照射方向数の関係については.)

2 治療計画CTの最適撮像条件の検討
岐阜大学医学部附属病院 放射線部
○北原将司 岡田仁志 松山勝哉 重山真一 横山龍二郎
【目的】当院に更新導入された治療計画CT装置(GE Healthcare社製LightSpeed Xtra)の機能及び特性を把握し,臨床で適切な運用を行うため,基礎的検討を行い撮像プロトコルの構築を行ったので報告する.
【検討事項】@CT値の変動性:各パラメータを変更し,CT値-相対電子密度補正ファントムをスキャン.ファントムに挿入されている各円柱ファントムのCT値を測定し評価する.A拡大DFOV65cm:ファントムを通常SFOV(50cm)外の領域に設置しスキャン.体幹部用楕円ファントムにてアーチファクトの領域を評価,格子ファントムにて格子の再現性を評価する.B撮像時間:時間をかけて撮像する事で,呼吸性移動や心拍動の画像への影響を評価する.
【結果】@再構成関数,管球回転速度,ヘリカルピッチの変化はCT値に影響しなかった.管電流は極度の低線量でなければCT値に影響しなかった.A拡大DFOVの機能を使用する事で,シェーディングアーチファクトの影響が軽減した.また通常SFOVまでは格子の形態が再現されたが,通常SFOV外の領域では格子の再現性が低かった.B撮像時間を長く設定する事で,呼吸性移動や心拍動が画像に表現された.
【結語】放射線治療において,治療装置の精度管理が重要視され,治療計画CT装置の精度管理にまで手が回らないのが現状である.しかし,治療計画CTは放射線治療の第一歩であり,ここでの誤差がその後の治療全てに影響する可能性があるため,性能評価や装置の機能及び特性を把握する事が望ましい。

教育講演
大垣市民病院に高精度放射線治療装置(Novalis Tx)が導入されるまでの物語
大垣市民病院 医学物理士 高木 等
【大垣市民病院における放射線治療の歴史】
○1993年3月:外来診療科新棟の新築に伴い、三菱社製ML-15MDXを導入。(昭和51年より使用してきた60Co照射装置を使用停止および廃棄)
○2000年問題:放射線治療計画装置(H/P:RPS700U)の端末PCを新規交換。
○2004年:ガントリ内部(マルチリーフコリメータ分解)などのオーバーホール実施。(ブラウン管モニターを液晶モニターに交換)(約2,000万円必要)
○2007年:二回目のオーバーホールを実施。(クライストロンは、3回交換)
○2008〜2010年3月:消耗備品の供給停止時期に伴い、クライストロン、電子銃、イオンポンプなど高額消耗品を順次計画的に交換。
○2009年2月:放射線治療計画装置(Philips社製 Pinnacle 3)を導入稼動。
○2010年3月6日:Novalis Txの搬入を開始〜現在に至る。
○2011年3月をもって、三菱社製ML-15MDXの使用停止予定。
【大垣市民病院の立地環境】
西濃医療圏の中で唯一放射線治療装置を所有している施設である。大垣市の人口16万人を加えて、西濃地域人口約40万人に対して、がん診療機関拠点病院としての役目を果たさなければならない。もっとも近隣で放射線治療装置を所有している施設は、岐阜市民病院であり、20km以上の距離がある。
【大垣市民病院の放射線治療装置の更新に対する選択肢について】
@放射線治療装置をリプレイスする。A新しく放射線治療室を建設する。旧放射線治療室は、稼動を停止する。B新しく放射線治療室を建設し、放射線治療装置を導入する。旧放射線治療室は、新装置が軌道にのるまでは、しばらくの間は継続して稼動させる。将来放射線治療装置を2台体制にするために管理区域のままで温存しておく。
1)放射線治療装置をリプレイスするとした場合のメリットとデメリット
(メリット)@必要な費用が、最低限で済む。(デメリット)@約半年の間、装置が使用できない。A当院の治療患者すべてを近圏の施設に紹介することとなる。B大垣市民病院の近圏で、1〜2箇所で受け入れて頂ける様な治療施設はないと思われる。C治療患者の理解を得た上で、その通院に対する送迎をも当院で担う必要がある。D半年間の採算を考えると、概算で約7〜8千万の減収と別経費が必要。
2)新しく放射線治療室を建設し新規で放射線治療装置を導入する場合のメリットとデメリット
(メリット)@旧放射線治療室は、新装置が軌道にのるまでは、しばらくの間は継続して稼動させることができる。A将来放射線治療装置を2台体制にするために管理区域のままで温存しておくので、今後の数十年の間はリプレイスの際に心配はない。B放射線治療部門において、減収となる心配はない。(デメリット)@新規放射線治療室を敷地内のどの場所にどのような内容で建設するか?A新規放射線治療室の建設にかかる費用は、莫大となる。B高精度放射線治療装置と合わせると、10億円を越える費用を要する。C旧放射線治療室を稼動しながら、新規放射線治療装置の立ち上げを実施する必要があるためにかなりの人と労力と時間を必要とする。
【大垣市民病院の新規放射線治療室建設に及ぶまでの経緯について】
平成16年:放射線治療装置更新委員会が発足(関連診療科医師代表者、技師長、事務局代表者など)※MRI、PET-CTの導入により、委員会は自然消滅。平成19年:救命救急センター増改築工事の中に放射線治療室の建設事項(合体案)が盛り込まれる。平成20年:放射線治療装置機種選定委員会が発足。(4回の委員会を開催し、委員の満場一致でNovalisTxを推薦することとなる)平成20年:放射線治療室建設分離案が正式決定。(建設図面の作成に着手)平成21年1月:新規放射線治療室の建設開始。(完成までの約一年間で、週一回で合計52回の建設会議が開催された)
【大垣市民病院における放射線治療の現状、今までのスケジュールと今後の予定について】
1)60件前後/1日の放射線治療患者数。2)約450件/1年の新患件数。3)1993年に導入した放射線治療装置の使用中である。4)高精度放射線治療を必要とする患者様は他院(県外)へ紹介している。5)新規放射線治療室が平成22年3月15日に完成した。6)高精度放射線治療装置(NovalisTx)を3月6日より搬入。7)原子力安全技術センターの検査官による施設検査を4月15日に実施。1週間後に合格の通知を受ける。8)4月25日より、Novalis Txの基礎ビームデータ測定を開始。(Pinnacle 3 &i-planの2台の放射線治療計画装置)9)5月下旬に、基礎ビームデータ測定を終了予定。10)平成22年8月1日より、臨床使用開始予定。10)高精度放射線治療の実施には、様々なハードルをクリアーしなければならない。
【まとめ】
今やがん治療を行うには、放射線治療装置は、欠かすことが出来ません。また、がん機関病院として認定を受けている施設には、必要不可欠な装置です。各施設が、CTやMRIなどの診断装置のように複数台を所有することは実質的には不可能です。医療装置は、理想的には約10年周期で更新されることが望まれます。放射線治療装置は、近年、他の診断装置と比較しても大変に高額な装置となりました。また、施設内に1台しか所有していない装置の更新には、数々の困難が発生します。加えて、放射線治療装置の立ち上げ作業には、およそ半年が必要となるでしょう。よって、がん機関認定病院などにおいては、導入当初から以後数十年間における計画的かつ現実的な運用方法が望まれます。
【放射線治療装置を持っている施設へ】
○放射線治療装置は、最低でも10年は使用します。○放射線治療施設は、約30年は、変わりません。○日頃から、様々な情報収集には努めて下さい。○更新の話が出てからではなく、研究会の際以外での県内外の施設見学に、足を運んで下さい。○院内幹部には、良く理解が得られるように十分な話し合いをして下さい。高精度放射線治療装置を使用して高精度放射線治療を実施するためには、放射線治療専門医と我々、放射線治療専門技師および放射線治療品質管理士および医学物理士が取得した知識・技術において、総力を結集して取り組まなければなりません。若いこれからの技師の方々の大きな成長が必要です。
【最後に】
近年において、岐阜県内外のがん機関病院において、装置更新あるいは新規導入される中、当院は、放射線治療装置の更新が最後となってしまいました。数年前から更新準備は進めてはおりました。諸事情により、MRIの造設・PET-CTの新規導入が先行されました。しかし、結果として現状のような形となったことは、診療科の先生方および西濃近圏の患者様にとっては最高であると思います。今後各施設にても当院が経験したような状況になることは間違いありません。今日の私の話が、諸先生方の将来の参考にして頂ければ幸いに思います。

特別講演
ノバリス放射線治療の経験
(ノバリスTx導入に際し、今後求められる放射線治療について)
藤田保健衛生大学 放射線科 伊藤文隆先生
【緒言】
日本の死因はがんが第1位を占める。がん治療成績改善に寄与する手段として、高精度放射線治療が必要となる可能性は高い。平成18年に施行されたがん対策基本法に基づく規定の中でも放射線治療は重視されている。大垣市民病院もがん診療連携拠点病院に指定されている。
大垣市民病院で今後求められる放射線治療として、がん死亡率の増加やがん対策基本法に基づいたがん診療連携拠点病院の指定などの背景は無視できないと思われる。
【名古屋セントラル病院ノバリス放射線治療の経験】
 ノバリス、ノバリスTxによる定位放射線治療はがん病巣の性状に合わせて一度に大量の放射線を照射し、より短期間での治療が可能となる。ノバリスやノバリスTxはSRT(stereotactic radiotherapy) を用いた治療を主に行う。
ノバリス、ノバリスTxは高精度3D照射に特化したtune-upリニアックである。ExacTrac(赤外線とX線Guidanceによる位置決め)によって、高い位置精度を保つことができる。しかし、従来型ノバリスの欠点として照射範囲が10x10cm以内で、広範囲への照射ができない点が挙げられる。これが日本で11台に普及が留まった要因の一つであると考えている。
名古屋セントラル病院ではほぼ全例でマスク、ボディ一シェルを使用し、赤外線による位置認識装置を活用している。ノバリスやノバリスTxで用いる6Droboticcouchは上下,左右,前後に加えて各々の軸の回転を行うことで、ExacTracによる位置補正を行っている。このcouchの特徴として、ガントリ−角120度から240度で5%以上の吸収(線量低下)が認められた。このため治療計画を行う上で制約が生じ、対向2門や後方1門照射、切線照射で線量分布を考慮(校正)する必要がある。
これらのノバリスに備えられた機能を利用し、多方向のConformal Beam(CB)や強度変調放射線治療 (IMRT)、多軌道のDynamicConformal Arc (DCA)による定位放射線治療(SRT)が可能となる。ConformalBeam(CB)では従来の放射線治療と比較し、肺癌への小分割照射、転移性肝腫瘍、胆管癌などへの照射で治療効果が認められた。IMRTは主として神経膠芽腫、前立腺癌に活用している。前立腺癌に対しては全例で金マ−カ−を挿入し、照射野の縮小を図った。これによって晩期直腸出血の頻度を低減することができた。Dynamic Conformal Arc (DCA)は主に転移性脳腫瘍へのSRTで活用している。
【大垣市民病院で導入されるノバリスTx放射線治療への考察】
 ノバリスTxの照射野は最大22 x40cmと拡大し、汎用性が向上した。ノバリスと比較して線量率も向上し、10MV、6MV、電子線使用が可能である。ExacTracに加え、ベ−スとなっているVarian-Torilogyに装備されたOBIによるCTイメ−ジ撮像ができ、体幹部定位照射にも対応可能である。このためTxはノバリスの欠点をある程度克服している。
大垣市民病院で今後、求められる放射線治療として以下が挙げられる。@他院γナイフで行っていた転移性脳腫瘍に対するSRT A神経膠芽腫の治療に対して、生物学的効果(BED)の上昇と照射期間短縮を図る B前立腺癌根治照射の線量上昇 C初期肺癌に対する根治照射でBED上昇と照射期間短縮を行う D頭頸部腫瘍(特に上咽頭癌)、骨転移巣への再照射。 これらは@からDへとハードルが高くなる。step by stepに移行することが望ましく、担当科主治医の理解と協力が不可欠である。
一方で大垣市民病院における問題点も挙げられる。@一日あたりの治療件数、部位の多さ A進行、緩和症例が多いため、ノバリスTxでは後方1門や対向2門による治療がむしろ困難な可能性がある B新たな高精度治療の必要な症例の増加 C治療計画装置の使い分け(i-planとPinnacle3 特に不均質補正の必要な症例)D治療開始前に検証が必要となり、治療開始時期は以前より遅延する可能性が高い。
これらの課題をクリアすることで、ノバリスTxによる高精度治療が初めて実現可能となると考えている。
【結語】
これからの高精度治療に最も大切なのはチーム医療である。治療に携わる各パート(診療放射線技師、医学物理士、放射線治療医、各科主治医、看護師、医療事務職員など)関係者の連携と協力が高精度放射線治療に不可欠と思われる。