平成16年11月1日
総会代議員 各位
並びに会員 各位
社団法人日本放射線技師会
監 事 蕗 利 彦
神奈川県綾瀬市綾西5-6-1
監 事 白 井 直 器
札幌市西区西野11-8-6-5
冠省
私ども両名は,平成14年4月1日より同16年3月末日まで本会の監事を務めてきており,去る平成16年5月21日の第61回総会の役員選挙においても再選され,引き続き同職務を引き受けてまいりました。
今回,私どもが本会監事として第61回総会代議員をはじめとする会員の皆様へ本文書による提言の公開を決意した理由は,以下に述べるような公益法人としてのあるまじき行為が,昨年来,本会会長以下の執行機関によってなされ,私どもによる再三の意見具申等によっても何ら改善される兆しがなく,このままでは,会員の共通の利益が害されるのみならず,公益法人としての本会の社会的な責任を問われかねないと判断したからに他なりません。
本来であれば,もう少し早くこのような提言をすべきであったかもしれませんが,私どもの職務の立場上役員選挙に影響を与えることを避け,会員の総意による本会の自浄作用に期するものがあったためで,その結果を待ち,新執行部による運営を再度見極めたうえで是非の確認を行うとの判断がありました。
以上のような次第により,本会の健全な運営のために,ぜひとも代議員はじめ会員の皆様のご理解をいただきたくお願い申し上げます。
早々
記
[本会組織の正常な運営の確保と医療制度改革に対する対応についての提言]
<総会までの執行部の問題点>
1. 「株式会社日本放射線技師会出版会」の設立
平成15年11月18日付で「株式会社日本放射線技師会出版会」が設立登記された(資料1参照)。この株式会社の設立行為は,以下の点で問題がある。
☆設立発起人(出資者)のほとんどが,熊谷和正会長以下の常務理事であること。
☆設立当初の取締役5名中4名が会長および常務理事であり,熊谷会長が代表取締役であること。また,監査役には本会の顧問税理士が就任していること(なお,熊谷会長以下の常務理事ら4名は,その後の当職ら監事による問題追及を受けて同株式会社の取締役を辞任している)。
☆「株式会社日本放射線技師会出版会」という名称が,明らかに本会との関連性を窺わせるものであること。
☆同株式会社の商業登記簿上の本店所在地が本会事務局の所在地と同じであり,かつ現実的に,本会事務局の一部スペースおよび電話その他の設備・機器を無償で使用していたこと(この点についても,当職ら監事からの問題点指摘の後である平成16年4月30日付で新宿区内へ移転をし,設立から半年近くの建物・設備使用については相当額の弁済をさせた。なお,この新宿区への本店住所の移転については,設立時と異なる法務局の管轄内に移転することによって,新しく登記簿が作られることになる関係で,「閉鎖登記簿謄本」を取らない限り,設立当初の役員等の氏名はわからないことになるので,そのような効果を意図しての本店移転ではないか,という疑問もある)。
☆上記のような商号の使用や本会建物等の無償使用の点を含めて,同株式会社の設立については,本会の正式な理事会および総会の事前承認の手続きを経ていないこと(なお,当職ら監事2名にも何らの事前または事後の通知等はなく,平成16年2月20日の理事会においてこれらの問題が発覚して臨時理事会の開催を求めた時点になって,ようやく当株式会社の設立等についての説明が熊谷会長からなされた)。
☆熊谷会長らの説明によれば,同株式会社は,本会の発行する出版物等の出版業務の受託を主な業務とするとのことであったが,そうであるとすれば,同株式会社の役員または株主を本会の理事が兼任することは,双方代理や利益相反行為の問題[「双方代理」は,同一人が同時に当事者双方それぞれの代理人となって契約を締結することで,民法(第108条)は原則としてこれを禁じている。「利益相反行為」は,当事者の間で利益が相反することとなる内容の行為。一方が他方を代理したり,一人が双方を代理したりすることは禁止される(民法第57条他)]が生じること(なお,すでに本会と同株式会社との間では,出版業務等に関する業務委託契約が締結されている)。
☆なお,同株式会社の設立については,当職ら監事の要求によって開催された平成16年3月19日の臨時理事会において事後的に承認されたが,この議題に利害関係を有している常務理事らが採決の承認決議に加わった。したがってこの承認は無効である。この臨時理事会の議事録は,総会開催前の日本放射線技師会雑誌5月号に掲載可能であったにもかかわらず,総会終了後の6月号に掲載された。選挙に不利になるとの判断で掲載を遅延させたことは明らかで,しかもその内容は相当量の削除がなされていた(資料2参照)。
また,最終的に同株式会社の設立は平成16年5月21日に開催された総会によって事後的に承認されてはいるが,無効力な臨時理事会の結果が反映されたものであり,これによって,上記問題のすべてについての違法性や不当性が治癒されたことにはならないと考える。
2. 電子メールを用いた持ち回り方式による理事会の開催
熊谷会長らは,本会の理事会を電子メールを用いた持ち回り方式によって開催し,このような理事会において重要な決議がいくつもなされてきた。しかし,株式会社の取締役会に関する判例等に示されるように,会議とは,そこに出席するメンバーの全員が,同時に発言をし,他者の発言を聞く機会が与えられ,相互に影響を及ぼし合う状況のもとで開催されるべきものであるとされている。したがって,会議電話やテレビ会議システムによって同時性が確保された方法ならばともかく,電子メールその他書類を回覧するような方式の理事会は不適切であり,そのような形式で行われた理事会決議は無効であると考える。この問題点についても,当職らは監事として指摘したが是正されなかった。
3. 監事による監査報告書に対する書き直しの要求と総会資料等への不掲載
当職ら監事は,その職務上,監査報告書を年度末に作成して理事会に提出することになっており,この監査報告書は年次総会の資料として会員に配布される事業報告書および日本放射線技師会雑誌の総会直前の号に記載されてきた。当職ら監事は,上述したような問題点を監査報告書で指摘したところ,熊谷会長はじめ常務理事によってその一部の書き直しを迫られたが,当職らはこれを拒絶した。そして,当職らが提出した監査報告書は,本年度総会資料および技師会雑誌の総会直前号のいずれにも掲載されなかった。
4. まとめ
以上のような熊谷会長以下の常務理事たちによる違法または不適切な行為について,当職ら監事は再三にわたって是正等を求めてきたが,いまのところ数で押し切られたような形になっている。しかし民法に定められた公益法人である以上,これらすべての問題点が事後的に治癒されたことにはならない。
<総会後に生じた問題点>
私どもは,上記の情報操作をはじめとする執行部の不適切かつ不当な運営が,いかに会員を誤った方向に導くものかを痛感するとともに,職責の範囲で手を尽くしてはきたものの,監事としての強い無力感に苛まれた。しかし,敢えてまた同職務を引き受けてきた理由は,現執行部の変節の推移をその当初から監視してきたものとして,ここで職務をなげうてば,新たな監事が事情を理解できないまま,現執行部の暴走に巻き込まれてしまうことをおそれたためである。
事実,投票結果が9票差という僅差での再選にもかかわらず,熊谷会長ら執行部は反省と自重を旨とするどころか,逆に「勝った」とばかりにますますその自侭な性格をむき出しにして,本会の混乱と会員意識の分裂を強めるに至っている。そして「勝ち逃げ」を急ぐかのように,事業の既成事実化のテンポを速めようとしていることが,後に無責任極まりない新聞記事として発現されるまでに至った。総会直後から生じた次の3点に問題点が象徴されている。
1. 事務職員への一方的な退職勧奨通告
本会の定款第31条には,「事務局長及び職員は理事会にはかり会長が任免し,会務に従事する」とあり,理事会の決定をみて職員の任免がなされることが明記されている。事務局長については,年初に病気療養を理由に自主的に退任されたことになっているが,これは熊谷会長ら数名の常務理事による度重なる辞任強要が事務局長を精神的にも追い詰め,出勤途上の昏倒による緊急入院にまで至らしめて退職に追い込んだものである。そして職員に対しては総会後,口頭にて退職の勧告をしたものの,ユニオンの支援もあって,5月31日付の各職員に宛てたメールにて受諾申し出期限の延長を通告している(資料3参照)。これは資料文面にもあるとおり,6月5日に開催された16年度第3回理事会前の熊谷会長からの直接のメールであり,規程にはない退職手当の割り増しを言明してまで「とにかく辞めてくれ」というものである。定款を無視してまで何故職員の退職を急がせる必要があったのかは明白である。
長年にわたり,予算管理をはじめ本会の事業運営に知悉する事務職員は,熊谷会長らにとって目障りな存在でしかない。予算を自分たちで思うままにするには,彼ら長年にわたって本会の事務をつかさどってきた職員を放逐し,人件費の転用をはかりたいというのは見えすいた理屈であり,熊谷会長らのそうした幼児的発想によって職業人生を翻弄された職員は実に不当な扱いを受けたのである。企業のリストラは,その企業を存続させるために経営者が涙をのんだ末の決断だが,本会の資産状況からはリストラの必然性はない。予算の捻出が必要であれば,むしろ会長が率先して自らの給与規程を見直し,右肩上がりを抑制する方法を理事会に提案して決議を経たのちに,職員個々人の了解を得ればよいことである。熊谷会長の行為は,彼らに一滴の涙を流すでもない実に冷酷な権力者としての振る舞いである。この場合,それまでの職員に対する人的影響力を排除して,自侭と保身とをはかるために行われた人員整理に他ならず,社会倫理上からも許されないことといわねばならない。
2. 正式な定款改正手続きを経ず事務所移転を急いだための中空団体化
IT関係の不備を理由に,7月20日に事務所移転が行われた。しかしその後,現在に至るまで新事務所所管轄区域での法人登記は行われておらず,本会の登記上公式な事務所所在地は,依然として「東京都中央区湊三丁目3番2号」である(資料4,5,6参照)。
法人が新規に事務所を購入する場合には,本来次の事項が手続きとして行われなければならない。
1)会員に対し事務所を購入するための理由とそれに伴う住所変更の告示
2)資金および予算の概算の告示
3)住所変更のための定款の改正
4)総会時,定款を改正するため会員の3分の2以上の賛同が得られるような十分な説明
以上の4項目が執り行われなければならない法人としての義務である。
このように公益法人の事務所移転は定款改正にかかわる問題であり,通常その準備から実行までに3年はかかるものとされている。なぜなら公益法人の定款改正は民法に規定されており,本会の定款第45条にもあるように,「本定款は,会員3分の2以上出席した総会でその3分2以上の同意を得,なお厚生大臣の認可を得なければ,これを変更することができない」とあるため,そのための代議員総会を開催し,予算の裏づけを含めた議事録の整備をするなど,主務官庁の許可を得るための書類事務に大変な手間と時間が要されるからである。
熊谷会長らはこの認識に欠けたために,主務官庁から書類不備を理由にこれまで2回もの差し戻しを受け,いまだに新所在地での登記ができないでいる。
民法第48条「事務所移転の登記」には,「法人カ主タル事務所ヲ移転シタルトキハ二週間内ニ旧所在地ニ於テハ移転ノ登記ヲ為シ新所在地ニ於テハ第四十六条第一項ニ定メタル登記ヲ為シ」と定められている。それが守られていない以上,現在の移転先事務所は実質の伴わない中空団体の所在地にすぎない。
移転を急いだ真の理由が明白でなく,これまでの手法と同じように,移転という既成事実さえつくれば後は何とでもなるという手法が,ここでようやく壁に突き当たったのである。法治国家における公益法人の運用が,国の法管理規制という網のもとに成り立っているという現実が,詭弁で押し通してきた公益法人としての存在そのものを宙に浮かせ,足止めをさせているのが実態である。熊谷会長らはそこで,8月末日に行われた理事会にて,安易に移転に同意した理事らに対し本年度中に定款を改正してほしい旨の協力をなかば強要し,いわば尻拭いを押し付けた格好にしている。
この状態から本会を立ち直らせるためには,いつまでも中空団体でいるわけにはいかないので,定款の改正を急がせなければならない。そのためには,「会員の3分2以上の同意を得,なおかつ厚生労働大臣の許可を得る必要がある」という公益法人としての規定に則さなければならない。したがって事務所移転に至る詳細な報告と決議が要請される旨の現状に対し,定款改正の是非および執行部の運営方針の是非が改めて問われなければならない。このことは,全会員に向け現執行部のあり方に対する当否を正す絶好の機会なのである。
3. マスコミへの無責任な事業案発表
7月4日に朝日新聞に掲載された「被曝手帳無料配布」に関する記事は,これまで本会の内部問題にすぎなかった熊谷会長ら現執行部の問題を,今度は外部まで巻き込む,いわば「社会化」された問題にまで発展させた。
この問題は,重要かつ大事業にもかかわらず予め会員に知らせていないことや,技師会の事業方針にもなく財政的な裏づけもないこと。厚生労働省はじめ日本医師会,日本歯科医師会,日本病院協会,さらには日本医学放射線学会など関連学会との事前協議がなされていないこと。現在の放射線管理学上からも,正確な被曝数量化をリアルタイムに提供できる体制になっていないこと。以上のほかにもさまざまな問題点があり,検討には慎重が要されることはいうまでもない。にもかかわらず,このような先走った過失を表面化させたことは,これまで友好関係にあった諸団体に対する明らかな非礼であった。また会員に一切知らせていないことで,会員からすれば個々人の名誉が著しく損なわれるとともに,職能団体としての本会への不信を一層高めることにもなった。これも会員無視,既成事実を先行させる非常に驕った姿勢の結果である。
日本医学放射線学会では,この記事を学会として重要な問題であるとして,7月15日に技師会との話し合いを申し入れている。そこで学会としては,「被曝低減の方法としてあり得る方策ではあるが,問題は技師会だけで片付くものではなく,患者に手帳を渡すという行為は医療全体の問題になるので,医師会や関連学会などとも十分に連携をとって進めなければならない。関係学会・機関などで十分に検討しないとデメリットも大きい」といった正論が提示されて,対応には慎重を要する旨の申し入れがあり,最後まで「平行線をたどった」というのが話し合いの実態であった(資料7参照)。
ところが8月末に行われた理事会および会長会議では,この問題について,「医学放射線学会の方がみえて2時間ほど話し合い,全面的な理解が得られた」と熊谷会長からの説明があり,さらに理事会では,これに関し実施できる病院から行うことではどうかとの提案がなされ,決定された。
資料7をみていただければわかるように,「全面的な理解が得られた」というのは虚偽の報告であることは明らかである。繰り返しになるが,株式会社出版会や定款改正の問題と同じように,ここでも既成事実化やそれに類するハッタリを打ち出しておいて,あとでツジツマを合わせていこうとする姿勢がはっきり現れているのである。このように,この問題はもはや医療社会において「社会化」されてしまっており,熊谷会長ら執行部の重大な言動問題として,関係者には道義的・社会的な責任が求められるべきである。
9月24日の日経新聞夕刊,10月16日の朝日新聞夕刊に「放射線治療品質管理士」の記事が掲載された(資料8参照)。これは診療放射線技師職の存立に対し重大な問題をはらんでいる。
この問題は,昨今の放射線治療に関する過剰・過小照射による医療事故を踏まえ,日本医学放射線学会が懸案としてきた医学物理士の資格処遇問題を,これを機に保険診療上の専門職として格上げし定着させる意図を有しているものと思われる。そして診療放射線技師の業務と独立させるとなれば,当然,技師はその資格者に従属された立場となり,また技師が同時に審査・認定対象となり保険診療上の資格者となる以上,技師の格差が生じるため処遇の有利さからその資格になだれ込むことは目に見えており,実質的に診療放射線技師職の崩壊につながる恐れがある。さらには,本会の理事会等で十分な議論がされていないため議事録もなく,会員には十分な説明および情報を公開した形跡もない問題であるにもかかわらず,突然マスコミでは申請の関係団体に本会名が明記されていることは実に奇怪であるといわねばならない。
これには日医の強い意向が反映されているとすれば,記事にあるように「最終決定」とみるべきであろう。重ねて強調したい。熊谷会長ら関係者の責任は重大である。
4. まとめ
総会後に生じた問題はこのほかにも発現しつつあり,熊谷会長ら執行部の運営は時間が経つに従ってその無軌道な性格をあらわにし,問題の波及は止めどもなく大きなものになってきている。私ども監事は,以上の問題点等を鑑み,もはや公益法人として本会は抜き差しならないところまできているとの認識で一致した。
<医療制度改革へ向けた今後の問題点─総括─>
以上のように,熊谷会長をはじめとする現執行部の運営手法は増長の一途をたどるばかりであり,これらによって生じた問題点が根本的に解決されないまま経過していけば,すでに一部に動きのみられる脱会者の増加に歯止めがかからなくなり,第二技師会発足の運動にもつながることで,組織の衰弱と同時に技師会の分裂というという最悪の結果が予想される。
しかも,さらに重大な問題として,「放射線治療品質管理士」の動きに顕著にみられるように,新たに改変の進む医療界からも遊離し,会員の共通の利益が害されるのみならず,公益法人として社会的な責任を問われる事態にもなりかねない。それは本質的な問題として,現在の事業運営とその方向が,主務官庁の厚生労働省が打ち出している2008年度施行の医療制度改革に対し,真に即応した方向に向いていないことが歴然としているからである。
医療制度の改革,とくに放射線技師職の改革には主務官庁である厚生労働省の理解が得られなければ不可能であることはいうまでもない。現執行部は被曝手帳の問題でも明らかなように,主務官庁との協議はおろか日本医師会はじめ関連学会との接触・協議等さえ行っていないために,厚生労働省から「このままでは,診療放射線技師という職業はなくなる」とか「現執行部では話ができない」などの露骨な発言が出されているとの報告がある。これらは法人の監督官庁としての牽制球であると受け止めるべきであり,そのうえ日本医師会をはじめ関連学会に相手にされないようでは,診療放射線技師職の衰亡も現実のものとなりかねない。
1. 医療制度改革に向けた現執行部の無策
来年の2005年末までに医療制度改革の全容がまとめられ,2006年の通常国会へ関連法案が提出されて,2008年度より医療制度改革が施行されることが昨年3月に「医療保険制度体系および診療報酬体系に関する基本方針」として閣議決定された。また今年の6月4日には,政府の経済財政諮問会議が答申したいわゆる「骨太方針2004」のなかに,5月19日に与党のとりまとめた健康戦略が盛り込まれて正式決定をみている。
それによれば,2005年度からの10ケ年戦略として,数値目標を設定した政策がその戦略内容によって展開されるというもので,2015年までの最重点施策に位置づけられている。
したがって,医療提供サイドにおいても,超高齢化社会への突入を前に,「医療のパラダイムの転換」を旨とした,文字どおりこれまでの枠組みにとらわれ
ない再編が求められるとともに,「放射線治療品質管理士」に示されるように技師職の根本にかかわる重要な問題も突きつけられており,現執行部の体制では,われわれが飛躍するための絶好の機会が失われつつあることは間違いない(表参照)。すでに他職能団体ではこうした動きに対して強力な活動が展開されており,われわれが求めてきた技師会創設以来の技師職の念願に関連する重大な問題が目前に迫っているにもかかわらず,現執行部にはそうした主務官庁や医療界との接触がないため,その状況を真摯にとらえ対応してきた形跡はなく,当然そのあるべき建設的な方向の提示もなされないまま,相も変わらず「技師格」にこだわっているのである。
2. 「バーター発言」と組織のリーダーのあり方
逆に,この問題に関連して示されている熊谷会長の姿勢は実に近視眼的なもので,組織の長としての耳を疑うような発言がなされている。先の総会直後に地域学術大会や地方技師会の総会で行われた講演で,熊谷会長は他職種の業務拡大の動きに触れ,「看護師にX線撮影の一部を開放するならば,静脈注射やファイバー検査を放射線技師が行えるようなバーター取り引きをする」という考えを表明している(資料9参照)。これは,はしなくも自らの政治的な無能をさらけ出して相手に手の内を見せているに等しいもので,組織のリーダーの発言として聞くとき,職種の解体を前提とし,さらには積極的にそれを是認していくかのごとき講演を得々として行っているという危険な言動であり,不心得な許されるべきものではない。
むしろ主務官庁にも医療界にも友好関係を保ちつつ,対峙すべきときには毅然として対峙し,立ち向かう姿勢こそがリーダーとして必要とされるものだが,そのような姿勢は微塵もなく,はじめから負け犬の姿勢でわれわれに危機感を煽るだけの姿しかない。そのうえで,何の根拠もない「技師格」を強要している始末なのである。
現執行部の主要事業として展開されている新生涯学習システムや資格認定制度は,主務官庁との協議や調整がなされていないため,社会的な資格としての保証も確認されないまま当の主務官庁からも無視されているばかりか,ある厚労省幹部からは「技師差別の格付けなどまったくナンセンスきわまりないものだ」と嘲笑の態で断じられている。これは,そのシステムや制度自体が,単に執行部の認知と事業欲(株式会社への業務転換)を満たすために自己目的化していることから,いたずらに会員への多忙と出費を強いるものとなり,会員のなかには健康を害し退会したいとの声すらあがっているほどである。その挙句に,会員間の差別化という,生涯教育の本来の趣旨である「スキルアップによる患者さんや一般社会への奉仕精神,またそれに伴う職業認知度の向上」という目的からは逸脱したものとなっている。そこには会員の向上心を利用した執行部の利益誘導が謀られているばかりで,真に会員の利益につながるものを見いだすことはできない。
3. 日本放射線技師会は何をなすべき組織か
日本放射線技師会は,元来その創立趣旨を資格制度問題解決に負って出発した。したがってその一番の大本は,組織の目標を達成していくための主務官庁はじめ医療界に対する交渉力や政治力であり,問題はあくまでもそれを遂行するリーダーたる人物にある。その人物の闘う対象はあくまでも組織の外部であり,内部に向けた区々たる統制や,まして組織を利用した保身や利益誘導などは言語道断であることはいうまでもない。古人は,「国家一人(いちにん)にして興り,一人にして亡ぶ」といったそうだが,組織も同じことであって,われわれはその「亡ぶ」姿をいままさに眼前にするものがあり,過去の軌跡を知るものとして暗澹たる思いにとらわれるものである。
われわれの先達は,技師法の制定以来,いくたびか廃止の危機を乗り越えながら職種一本化を実現し,将来の技師法抜本改正へ向けて,職域の拡大と同時にチーム医療や守秘義務の規定を盛り込むまでに資格制度の改善を行ってきた。創立から半世紀以上をかけて,医師をはじめ他職種とのイコールパートナーへの道を着実に歩んできたのである。そして,教育こそが組織の力であるとして四年制大学教育の普及(現在24大学が発足)と大学院教育までの充実に意を注ぎ,それら後進の処遇の改善を進め社会的な認識を高めていくことで,組織の本来の目的である技師法の抜本的な改正へと道をつなげていくはずであった。
また長年にわたって思いやりキャンペーンをはじめ,患者さん中心の医療やチーム医療の推進を唱導してきた先駆者としてのプライドも,現在ではほとんどが色あせたものとなった。他職種がその役割を担ってマスコミをにぎわし,いわば医療問題を論ずるさいの合言葉の観すら呈している。
しかしながらわれわれは,これまでの組織の活動を通じて,医療界のそうした方向を見越して,率先して行動をとってきたという実績と自尊を忘れてはならない。またそうした実績が,われわれのエキスパートとしての自立心を促してきたという事実を忘れてはならない。それよりも医療界や一般社会が,このようなわれわれの実績と努力を評価しつつあったことも忘れてはならない。
こうした環境にあった矢先に,現執行部は過去を否定し去り,あまつさえ裏会社を設立し公益法人の本義を歪めるまでして保身欲を満たすに汲々としている。また技師会を支えてきてくれた多くの関係者との交流を,目先の利欲から切り捨てるような社会的道義にも悖る行動をこのまま放置していくことは,本会の一層の孤立化をもたらすものと深く憂慮するばかりである。
いわば現執行部は,過去を否定し,私物化することでわれわれの未来までも閉ざしてしまったのである。
実際,現執行部の技師法への対応は単に「技師法の適正化」というのみで,抜本改正への意欲はまったく見られず,本会創立の本義が失われたままに進められているそのあり方は,決して会員を正しい方向へ導いてくれるものではない。そのような本来のあるべき発想を失い,公益法人としての道を踏み外した組織に対して投げつけられた言葉が,先の主務官庁幹部職員の「君たちの職業はなくなる」となるのは当然の帰結であろう。
2008年度施行の医療制度改革に向け,ひいては技師のあるべき姿にしていくためにも,技師法抜本改正への千載一遇の機会を失ってはならない。現執行部に踊らされて無駄に費やしている時間はないのである。
ここに,代議員をはじめ会員諸氏が奮い立ち,正しい総会運営を行ったうえで,速やかな執行部改革が断行されんことを切に願うものである。
以上