第４４回岐阜県放射線治療技術研究会

基礎セミナー

モニタ線量計校正の実際（モニタ線量計校正業務の解説および諸注意について）
サブタイトル「がん医療における専門技師の取り組み」について

大垣市民病院　医療技術部　診療検査科　外来放射線室　高木　等

　第44回岐阜県放射線治療技術研究会おいては、放射線治療技術の標準（X線の線量評価）の中で、特にモニタ線量計校正の実際について参考テキストを配布して説明を加えました。
ただし、発表は、第94回放射線治療かたろう会にて、京都大学医学部付属病院放射線部の広瀬哲雄先生が御講演された「がん医療における専門技師の取り組み」についての講演内容に私自分の考えも交えた内容で報告させて頂きました。先ず始めに、がん対策基本法にはがん治療専門放射線技師の存在が明記されていない事について考えてみます。がん専門薬剤師、がん専門看護師と放射線治療品質管理士が明記されています。がんプロフェッショナル養成プランにおいても医学物理士、看護師などは明確な教育方針が立てられてきております。がん専門薬剤師については日本病院薬剤師会の研修施設（３ケ月の研修）、がん専門看護師の養成については日本看護系大学協議会の専門看護師教育課程（修士２年）と具体的な教育体制も整ってきました。しかし、がん治療専門放射線技師は未だに、受け皿がないのが現状です。これは、偏に組織対応の出遅れが原因でないかと思われます。東京大学、京都大学大学院には医学物理士の養成プログラムがあり、医学・工学連携育成コースや工学研究科・医学研究科連携コースが設置されています。これらの教育プログラムの本来の目的は、医療の質と安全の確保であり、「放射線治療の質と安全で担保された患者の便益」が最優先されなければなりません。経営、安全、医療の質、人材育成の維持向上が目的です。Sustainability（持続可能性）に我々医療人は応えなければならない責務を背負っています。今後、医療の時代はどのように変わっていくのでしょうか？と考えた時に、各省庁の動きでは、医療サービス：経済産業省、がん対策基本法およびがん拠点連携病院：厚生労働省、がんプロジェクト教育およびがんプロフェッショナル育成：文部科学省、国家公務員基本法改正の実施（平成20年度見込み）が見られます。これらの動向を見据えて、組織として前向きで同調的な対応を宜しくお願いしたいと考えます。
次に、個人個人のコンピテンシー(Competency：能力)について、好業績者の行動特性をハーバード大学心理学者　D.C.マクレランドが「学歴や知能レベルが同等の外交官が発展途上国在中期間に業績格差がつくのはなぜであろうか・・・？」を分析した結果、「・・・好業績者にはある共通の行動特性がある。」①異文化に対する感受性に優れ、環境対応能力が高い。②どんな相手に対しても人間性を尊重する。③自ら人的ネットワークを構築することが上手である。ただし、コピテンシーは、職種、職務などによって異なることはある。コンピテンシーのアンケートを京都大学で実施した結果は、40、30歳台の技師が実力をつけてきている。その分布に急峻さと緩やかさの二通りがある。放任型、教育型に分類される。放射線技師全員の判断の上位10～15％の能力評価は、技師長の評価と一致していた。共通の能力について、○仕事の質が高く間違いが少ない○常に向上心を持っている。○仕事に対する姿勢と行動がまじめである。○若い人材の教育や指導が適切である。○他の医療職種とのコミュニケーションを取るのが上手である。○困難な問題の対応能力、分析力に長けている。○観察力すなわち人を見る目がある。○話し相手を尊重しながら会話ができる。○文章を書く能力に長けている。○人を誉めることができるなどであった。欠点はともすれば、長所に、大化けする。意識して変化することが脳にとっての喜びであるとあり、○欠点とか弱点というのは、それをはっきりと脳が意識できるという点でチャンスなのである。○脳にとっての創造性の最大の形式は、自分自身が変わること、乗り越えることである。仕事で弱点が分かれば必ずいい結果に結びつく。学生でも社会人でも、自分にはたいした能力がないとかうまくことが運ばないといじけている人は、逆に自分の欠点をはっきりと探り出して、意識できるようにした方が良い結果に繋がる。○いじけている間はモヤモヤしているだけである。○脳にきちんと働きかける「意識」の形になっていない。○欠点が明確にできると、乗り越えるべき対象が見えてくる。○そうなれば、脳は喜んで創造性を発揮するようになる。それは、得意なことが明確になるのと同じことである。○コミュニケーションが下手、英語が苦手で仕事が進まない。○とにかく「これが欠点だ」と自分に突きつけてしまう。人間の脳は退屈するのが嫌いであるから、乗り越えようと工夫するのである。良い仕事を成し遂げているすばらしい人々は、共通点として、人のために、社会のためにという高い倫理観を持っている。○それを達成する努力をする。○そのなかで困難や壁に突き当たる。○その重圧が大きいほど底力を出してくる。壁、つまりそのときの弱点がくっきりと分かるから、脳は本当によく働くシステムとして機能する。いじけているなら、欠点を脳に伝えよ。それが仕事の助けになることは述べるまでもない。社会で生き抜く能力とは、武　豊騎手が、「自分の力を仕事で楽しめ」と述べており、仕事（勉強）の壁とか限界などというものは、自分で作ればいくらでも出てくる。実際には、目に見えるものでもなく、本当にあるわけでもないのに、勝手に枠を作って、その中で自ら苦しんでいるだけである。「ここまででいいや」と自分で決めてしまえば本当にそこまでで終わってしまいます。まだまだと考えれば、仕事は常に発展途上であると思われる。いったい自分の力がどれほどであるのか。仕事でその自分の力を楽しみ、味わい尽くすことは最高であると話している。今後、診療放射線技師の基本理念および構造を再構築する必要性を痛感する。これからは、診療放射線技師一人一人が、自分に何が出来るかを自分で考えることが大切であると考える。そのための診療放射線技師のこれからの方向性として、いろいろな方面の勉強に興味を持つ診療放射線技師になる。例えば、①がん専門薬剤師やがん専門看護師の研修会などにも参加する機会をつくる。②診療放射線技師（治療専門技師）の研修会に、他職種の方々も参加して頂く機会を多くつくる。③病理組織、院内感染や公衆衛生など直接は関係の薄い分野への興味をもつ。以上のことを実行するには、自分の専門分野に極めて精通する必要がある。他職種間において、業務内容の相互理解が今まで以上により一層できるようになるはずである。
　我々放射線治療専門技師の聖域である放射線治療分野が、他職種の方々および患者様からより深く信頼され期待されることを最重要目標として、これからの診療放射線技師にとっても魅力のある環境を整えていくことに邁進して行きたいと考えています。

スプレットシートを使用したＭＵ数独立検証の実際

大垣市民病院医療技術部診療検査科外来放射線室竹中和幸

　放射線治療を行う上で、「治療計画」は必要不可欠であることはいうまでもない。治療計画は空間的線量分布の計算、時間的線量配分の検討、照射方法、照射条件を考慮した上で行われる。現在では多くの場合、治療計画装置を用いて最終的なモニタ単位数（MU値）が決定される。さらに、この決定したMU値が本当に正しいのか否かは別の手法を用いて検証を行う必要がある。
　主な検証方法として次のような方法が挙げられる。
①TMR、出力係数など各種係数を一覧表にしておき、表引きにして電卓で計算する方法
②Excelを使用したPCベースで計算する方法
③市販されているPCベースで計算するソフトの使用
④アルゴリズムの違うRTPSの使用
⑤ファントムを使用した実測での確認
今回は、②の所有しているパソコンを利用することで、新たな予算は必要なく、不整形照射野に対してもClarkson法と同様の手法を用いることで、検証に十分耐えられる計算精度が確保できる「スプレットシートを使用したMU値の検証の実際」として、作業手順を説明した。
　このスプレットシートは自施設での基礎データを元に各種係数を回帰して任意の照射条件に対応できるワークシートである。必要となる基礎データは組織最大線量比：TMR、出力係数（全散乱係数：Scp、コリメータ散乱係数：Sc、ファントム散乱係数：Sp）、空中軸外線量比：A0(r)である。
【TMR回帰式の作成目的】
1. TMRを１つの回帰式で求めることができるようにする。
2. 少ない測定データによる精度の確保および測定データの検証作業である。
3. 日常の照射条件への応用を考慮して等価円形照射野半径を使用する。
【回帰式の作成手順】
1. 自施設で使用している基礎データを用意する。（無いデータはデータ取得から始める）
2. 深さ毎に近似曲線を作成し、同時に近似多項式を得る。
3. 得られた多項式を元に回帰式（1）を作成する。
　　　　　TMR(d,r) = a3(d)r3 + a2(d)r2 + a1(d)r + a0(d)　　・・・（1）
TMR(d,r)：任意の深さd、任意の照射野半径rでのTMR値
a3(d)r3 , a2(d)r2 , a1(d)r , a0(d)：半径rの３次多項式それぞれの係数であり、かつ深さdの関数
4. 回帰式（１）より各深さおよび各照射野半径の回帰TMRを得る。
5. 作成した回帰式の妥当性を判断するために、得られた回帰TMR（算出値）と基礎データ（測定値）間の誤差を判定する。基礎データとの差が0.5％以内の精度が目標とされる。
　　　　誤差(%) = ( 算出値－測定値 ) / 測定値・100　　・・・（2）
　続いて出力係数の回帰式の作成に移るが、作成手順はTMR回帰式の作成手順に準ずるため、ここでは省略とする。最後に空中軸外線量比：A0(r)の測定を行い、測定結果をExcelの入力シートに記録する。こちらも測定結果をグラフ化し、近似多項式を得る。
　ここまで準備できたら「ＭＵ値の計算ワークシート」に必要なパラメータを入力するとともに、TMRや出力係数の項目には作成した回帰式を入力し、実際に計算してみる。不整形照射野では放射状方向距離の測定が加わるため、手間であるが、計測用の透明シート（OHP）を使用したり、分割数を調整することで、作業効率が良くなると思われる。
　今回、このワークシートの作成にあたり、１つ１つのデータの重要性を改めて感じた。実際に回帰式を作成するにあたり、データ値の誤入力や計算式の作成が正確でないと最終的なMU値が比較・検証に使用できない。この時に測定データの再検討を行うことやRTPSの計算結果と比較して相互に入力パラメータの確認をすることで、互いにチェックができると思われた。
　検証方法は冒頭で述べた通り、いくつかの方法がある。やはりMU値決定に際して治療計画装置は中心的な役割を果たしてくるが、これを鵜呑みにするのではなく、今回説明したスプレットシートを用いた検証を行うなどして、ダブルチェックもしくはそれ以上のチェックを行う必要が我々、放射線治療を携わる人間としての責務と思われた。施設によっては時間的な制約、人的な制約、設備的な制約があるであろうから各々に合った検証方法を組み合わせることが重要である。そして自施設でできていない検証方法い関しては実施している施設との意見交換などで情報を共有できれば、治療担当技師にとって大きな励みになるのではないでしょうか!?また、常日頃からこうした検証作業に従事していくで、さらなる高精度治療の検証作業等の煩雑な業務にも移行しやすいのではないかと思われた。
　最後に今回Excelの使用にあたり、「Excel2007」を使用して作業を行った。Excel2007を主に使用したのが今回が初めてであり、Excel2003と比べ、所々バージョンアップが施され、便利な面もある反面、使用に少々手間取った。ソフトが新しくなるとなかなか使い慣れたソフトから移行しにくいが、チャレンジ精神を持って使いこなしていくのも面白いと感じた。Excelの使用方法に関しては市販されている成書を参考にされたい。

教育講演

知らぬが仏：Obscurity in Radiation Therapy

岐阜県総合医療センター　腫瘍放射線治療部長　柳川繁雄　先生

特別講演

Varian最新放射線治療システムのご紹介

株式会社バリアンメディカルシステムズ販売支援部　マネージャー　菅谷健一郎　先生